夏だ!キャンプだ!

キャンプ経験の無い僕が、キャンプ場に行った。
勝手がわからない上に、免許こそあれペーパードライバー。
運転から何まで友人達に任せるというなんとも情けない主催者だ。
夕方になる手前の午後、まだ陽射しは強い。
僕ら以外にも客は数組。
崖と木々に囲まれ山をぽっかりとえぐったように作られた広場に、
それらが寝泊まりすることになる。
赤茶けた土と緑だけの、シンプルなコントラスト。
開放感を得るために遊びに来たようなものなのに、
まるで閉じ込められたような恐怖を感じた。
指示されながらなんとかテントを張り、
次はバーベキューの準備だ。
何もできない僕は、率先してパシリになる。
独りで管理棟で販売している食材を買いにいくことにした。
広場の印章とはうって変わって、
管理棟までの道のりは山をぐるりと回るようならせんの細道。
片側には崖、もう一方に見晴らしのよい街並を俯瞰で見ながら歩いていく。
ちょっと高めのお代を支払って、
大きめの真空パックに入れられた食材を受け取った。
自販機でビールを人数分+α購入。
こちらもホテル並みに高い。
主催者なので、全部僕の支払いだ。
ああ…車出してもらうんだったら都内で買っておくべきだったんだな。
そんなぼんやりとした後悔を抱きつつ、帰路につく。
行きはゆっくりと見ていた景色も、二度目には感慨もない。
しかもこの食材を皆が待っていることを考えると、
急ぎ足にならざるを得ない。
すたすたと細い道を歩いていると、妙な音がした。
ぷしゅーーーという、コーラのフタを開けたときのような音が、
遠くから近くへ、一瞬ではなく持続して鳴り始めた。
ひとつでなく、次第に増える、輪唱のように。
なんだ?
と、ようやく足を止めて振り返ったとき。
崖と道をつなぐ接点にみるみるうちに亀裂が入り、
そこから噴水のように水が吹き出した。
冷てぇ!
一番最初に感じたのは、驚きや恐怖でなく、そんな馬鹿らしい感想。
僕は逃げ出しながらとっさに、もう一方の見晴らしに視線を映した。
先ほどまでのどかな輝きを見せていた街並が、
一面の水たまりになっていた…。
なんで?え、やばいぞ!わけわかんねぇ!
背後から次々と生まれだす水柱から逃げ続ける僕には、
そんな結論も解決策も生まれない単純な言葉しか頭に出て来なかった。
とにかく走った。
ようやく広場が見えてくると、
真っ先に友人達を探した。
…いない。
あぶないぞ!みんな逃げろ!
という、ありきたりな台詞すら
なぜかこの期に及んでまで羞恥心が邪魔をして発することができず。
とにかく必死に走る僕を奇異な目で眺める他のグループを尻目に
突き当たりの崖によじ登った。
背後でざわざわと声がした。
悲鳴も聴こえた。
でも後ろは振り返れない。
今は、この石ころのどこを掴めば登れるかだけを考えていた。
石は思ったよりも軽石に近い質感で、土もふかふかと柔らかい。
大きめの石につかみかかっても、それが土からもぎ取られてしまうようだ。
いつ落ちるかもわからない、そんな恐怖心が、高所恐怖症よりも勝っていた。
あと数歩、というところでようやく冷静さを取り戻し始める。
友人達はどうなったのだろう。
下で騒いでいる人達はどうやって逃げているのだろう。
もしかして同じ足場を辿って登ろうとしているのかもしれない。
まずは自分が早く登らなくては。
最後、これに手をかければ登りきれる、という石を掴むと、
案の定もろく土からもぎとれてしまった。
これが落ちたら、下にいる人にぶつかってしまう。
登るためにわしづかみにしたはずの石を、
今は押し返して支えている。
全く動けない状態になってしまった。
水の音と、ざわめく声と、自分の血流の音を聞きながら、
したたる汗も拭えずに崖で硬直状態。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…。
この右手の石を捨てれば、自分は助かるかもしれない。
でも同時に脳裏をよぎるのは、
なぜ広場に入った瞬間に声が出せなかったのかという罪悪感。
結局僕は、独りだけ助かろうとしてこの崖にいるのだ。
見つからなかった友人達すら探さずに。
思考が停止し始めた頃、上から誰かの手が、
僕の右手で支えていた石を持ち上げてくれた。
驚いて見上げると、
再会に喜ぶ暇もなくとにかく荒い息で慌てた様子の友人。
いた?いたの!?
そう叫ぶ事と共に駆け寄った友人達が両手を引っ張り上げてくれる。
ああ、助かった!
さぁ、あともう一歩、よじ上って…
というところで、目が覚めた。
またもや変な夢である。
忘れちゃいけないね、震災のことは。