小さな命

20時少し手前、空が鳴った。
僕はこれから訪れるであろう激しい雨に、
小さな命を思った。
実は発見後、すぐに猫用ミルクと哺乳瓶を買いにいった。
買い物からバイクで帰ってくると、ささっと逃げて行く成猫の姿。
おそらく親猫が来たのだろうとミルクをやることはやめた。
人間用に比べ随分と高い買い物だったが、
親猫が乳を与えてくれるのであればそれが一番だ。
でも、あれは本当に親猫だったのかな。
一抹の不安がよぎる。
貯水タンクの下に置かれた、小さなダンボール。
それを雨に濡れないよう少し奥へ移動しようと、
懐中電灯を手に駐車場へ行った。
手作りの屋根をどけると、そこには安らかに眠る子猫。
まるで親にでもなったかのような、温かい気持ち。
人差し指で、そっと腹を撫でてみた。
…硬い。
ぴくりとも動かないそれは、
足を持って動かすと胴体ごとひっくり返る程に硬くなっていた。
…遅かった。
親猫は、来ていなかった。
思えば猫が産み落とすのは多数匹。
なぜ、1匹だけ発見されたのか?
先に見つけたのはカメラマンさんなので詳しい状況は知らない。
親猫は産み落とした後、安全な場所を求めて移動する。1匹ずつくわえて。
でも、たとえ人間たちがベッドを作ったりしていたのが
他の子猫を移動していた時間だったとしても、
その後、親猫が来て運んでいかないのはどうもおかしい。
元々弱っていて見捨てられた子だったのかもしれない。
卑怯な僕ら人間は、そう思わないとつらくてしょうがない。
僕は、駐車場の隅に穴を掘った。
その小さな穴に、小さな体を置く。
生き物だったそれに、土をかける違和感が背筋をくすぐる。
暗闇の中、蚊に刺されながら無表情で穴を埋める男。
もし他人に気付かれたらさぞ不気味だっただろう。
しばらくして、雷と共に、空が泣いた。
ごめんね、ごめんね…ごめんね。
どうか、安らかに眠ってください。