旅立ちを逃して

夢を見た。

換気扇つけっぱなしで寝てしまった。
国道一号線の騒々しさを思い出した。
起きたら折り曲げた膝の裏にラムネさんがいた。
今は亡き黒猫のぬくもりを感じた。
ああ、生きてる。
そう思った。

オレは、フェリーに乗る予定だ。
チケットも買ったが、まだ時間がある。
船旅の友は亡き黒猫ヨル。
リードもつけずに屋外を一緒に歩く。
というか、人間語だってしゃべれる。
時間をつぶすために、お互い自由に過ごす。
オレはシーツのぴんと張られたやわらかな歩道に、
人差し指でらくがきをして通行人に自慢したり。
ヨルは他所様の庭に入っては植木に悪さしてるようだ。

「あれ?ジャケットがないよ?」
「いいじゃん別に、そもそもライダーズジャケットなんて、
 バイクに乗るわけでもないし」
「違うんだよ、あれに財布も入れてあるんだよ」
「チケットも!?」
「うん、財布の中」

オレは、ヨルを抱きかかえて探すことにした。
ずっしりと重く、たぽたぽのお腹は少し冷えている。
ジャケットは、すぐに見つかった。
10歩も歩かず到着した公演の茂みにかけられて。
横には清掃員のお兄さん。

「あーよかった、あった」
「なんで道ばたでジャケットなんてなくすの(笑)」
「ちょっと暑いから脱いでただけさ」
「で、財布は?」
「ここに…あ、あれ?財布だけないや」

もしかして、と思った僕は清掃員をじっと見つめた。
ヨルも地べたでのびをした。

「ご、ごめんなさい。まだ抜いてないです」

と清掃員は自分のポケットから財布を取り出す。

「どうも」
「よかった、これでフェリー乗れるね」
「うん…そうだね」

ヨルが何か続きを言いかけた。
しかし、ここで僕は目覚めてしまった。
起きたらヨルがいた頃の住居じゃなかった。
国道一号線の騒がしさもなければ、
膝の裏でぬくぬくしているのは華奢なラムネさんだ。
ああ、帰ってきてしまった。
そう思った。

yoru