赤いレンガの螺旋

また螺旋の夢を見た。
これは子供の頃からカタチを変えてずっと見てきたもの。
何かの用事で部屋を出てしまい、
戻ろうとすればする程に様々な場所へとたどり着いてしまう。
カビ臭い清掃道具の部屋、
カルキ臭い市民プール、
汗臭い体育館、
紙の臭いのする書店、
それら全てが螺旋の階段で繋がっている、赤レンガの大きな建物。
僕はとにかく焦って次へ次へと歩いていく。
どこへ向っているんだっけ?どうやって向えばいいんだっけ?
ああ、そうだ。
僕は歌手の新人マネージャーだった。
ショートカットのよく似合うボーイッシュなシンガーソングライターの子。
夕べ送った後にソファで寝てしまったのだ。
朝になって、これまた彼女に良く似たデザイナーの母親に起こされ、
どういったことかと問いつめられたのだ。
母親は僕が新しくマネージャーになった事を知らない。
いや、たとえマネージャーでも
女性の部屋にあがりこんで寝てしまうのは問題か。
慌てながらも僕は正直に弁解するも信じてくれない。
彼女はというとそんなことあるわけないじゃないとしらっとテレビをつける。
その自分を男として見ていないという事がよくわかる態度にいらつく。
母親から名刺を渡された。
それを書店に渡せば予約していた本をくれるといったような。
そうか、おつかいに出されたんだっけ。
部屋は24畳もありそうな事務所のような無機質な部屋。
僕は名刺ひとつを持って住居棟を後にしたんだ。
でも書店はとっくに過ぎた。
経験上、戻ればまた螺旋は複雑に絡み合って戻れなくなる。
どうしよう…と思ったのだが、なぜか手には本が握られていた。
これで堂々と部屋に戻れる。
おつかいを済ませて母親の機嫌を直して、
僕は今まで通りの生活を再開するんだ。
そう、少し気持ちが晴れたところで視界も晴れる。
外に出たのだ。
あれ?
出ちゃダメじゃん。部屋は赤レンガの螺旋の中にあるんだ。
戻ろうと思ったが、今度は入り口がわからない。
外から眺めると意外と小さなその赤レンガの建物の外周を回りながら、
必死に入り口を探す。
男と肩がぶつかる。
中井貴一さんだった。
「失礼」と彼独特のスマイルを浮かべながら通り過ぎた。
こちらも謝るべきだったが驚いて声が出せなかった。
「喜一さん、こっちこっち!」
と、2階から舌の絡むようなしゃべり方で顔を出したのは吉岡秀隆さん。
見ると様々な役者達が宴会を開いている。
ああ、なんで僕はあの世界にいないんだろう。
なぜ歌手のマネージャーなんか…と羨ましく思いながらその場を後にする。
居酒屋を過ぎて印刷屋の角を曲がり、
このアトラクションのような赤いレンガの全貌を引いて眺めると、
長い行列が一部に向って並んでいることに気づく。
しょうがない、並ばなきゃ…。
無駄に長く感じる時間に焦りながら、母親のキツイ口調を思い返す。
自分に無関心な歌手とこれからやっていけるのだろうかと不安も感じながら。
ようやく列が先に進み、門が見えてきた。
門?
行列は赤いレンガの建物には繋がってなかった。
なぜかそこは井の頭動物園だった。
間違った!
そう気づいて辺りを見回すと、
既に赤いレンガの建物なんてどこにも無かった。
自分から、血の気が引くのがわかった。
と、そこで起きた。
なんなんだ、これ。