9時43分の電話

もう電話も来ないかな…
そうケータイを開いた18:00。
前の晩遅くまで企画書作成に追われ、
案の定寝坊しランチおあずけのままロケハンに急いだ日の夕方。
軽い昼寝(夕寝?)でもしようと横になったときのことだった。
この頃の不景気のせいか、はたまた単純に自分自身の不人気か、
制作会社を通さずに低予算の作品を仕上げることが多くなっている。
その日もそれに漏れず、機材の発注やら何やらで
カメラマンやスタジオなどと幾度も電話でやりとりしていたのだ。
名もなき監督さまはいわゆるAD並みの雑務ばかり。
治りかけの風邪も最後のあがきとばかり蓄膿を併発させ、
ぼんやり頭をリフレッシュするには少しばかりの睡眠が必要だった。
もう電話も来ないかな…
ケータイを開き、着信が無いことを確かめる。
今日はよく電話をしたなぁ…
ふと、通話記録も確かめてみる。
ふぉ!?
発信記録 9:43。
寝ていたはずのその時間に、ある会社の名前があった。
ご存じの方もいるかと思うが、
僕は9年前までサラリーマンでした。
といっても、ネクタイ締めてビジネスバッグを抱えたそれではなく、
小汚いジーンズにヒゲ面のCM制作会社社員。
残業手当って何ですか?おしっこ長いんですか?
ってくらいに過酷な労働状況。帰れる日は決まって終電。
それでもいつか自分の作品を作りたかった僕は、
帰宅後も明け方までPCとにらめっこして脚本や企画づくりに励んでおりました。
出社時間は10:00。当然寝坊します。
とはいえ制作準備と外部折衝が主な仕事であるからして、
午前中は正直そんなに忙しく立ち回る必要もない。
必要なら会社に寝泊まりして翌朝までに仕事を片付ければいい。
そんな、中途半端に怠惰な生活。
上司であるプロデューサー達が出社していて電話に出られると厄介なので、
新人に優しい総務や経理しかいない9:30-10:00の時間帯を狙う。
「あの…また寝坊しました(笑)。1時間遅れます」
発信記録を見て、はっとした。
その9年前に勤めていた会社の代表番号があったのだ。
時間は9:43。
自分自身、全く記憶がない。
おかげで眠気も吹っ飛んだ。
寝坊したらロケハンに遅れる!そんな心理が、
かつての行為を繰り返させたのであろうか。
謎だ・・・