猫舌なんです

コトバとは不思議なもので
さあ言うか、となると出てきてくれない
伝わると思うととたんに恥ずかしくなる
ひとり部屋で鼻歌でもうたうように
気持ちが乗った時には一気にうわーっと出てくるくせに
他人がいるとささっとテレビの裏に隠れてしまう
そうそう、猫舌なんです、僕。

さてこの言い回しは合ってるのかとか
同じ助詞ばかりくり返していないかなとか
頭の悪さがばれないように難しい単語を使おうかとか
結論を先に言ってからの方がわかりやすいかなとか
もったいぶって気になる話題から入ってやろうかとか
そもそも誰も聞きたいとも思ってないかもとか
自分なんかは発言する価値もないかもとか
いろいろぐちゃぐちゃに考えて
やっぱりソファの下から様子を伺うことになる
だって、猫舌なんです、僕。

そういえば文字が書けたことを思い出したので
コトバを発することはあきらめて
詩でも書いたらかっこいいかもと思いついた!
小さな部屋を飛び出して4車線道路を横切って
電車に飛び乗りがたごと揺られ
ドアをとんとん叩いてしっぽをふりふり
どうしたら詩が書けるか聞いてみた

あの先生は言った
伝わりやすいのが一番ですよ
心を揺さぶるには照れ臭くなるくらいがちょうどいい
愛だの恋だのみなさん馬鹿にしがちですが
売れてるやつってみんなそうじゃないですか
あいみょんは拓郎のパクリなんですよ
田舎のヤンキーにもわかるようにうたってください

その先生は言った
できるだけ難解な方がいいんです
通ぶった人たちがよだれを垂らしながら
我先に解読してやろうと群がるんです
でも発表の時にちょっとだけヒントを与えてください
彼らは飽きやすいので難しすぎると
SNSで悪口を書き出しやがります

どの先生が言った?
あなたはコトバに向いていない
絵を描くといいかもしれません
もしくはよーいスタートと言うだけで良い
映画監督なんかも楽そうでいいですね
重要なのはコンセプトを饒舌に語れることです
それだけで人は興味を持って振り向いてくれます

猫舌な僕は、人間のコトバを発せないので
どれも無理だな、とあきらめて
晩飯の時間まで僕の膝の上でくるまって眠りにつくことにした
おいしいごはんがたのしみにゃ