ヒプナゴジア

いつもより湿度が高いせいか
アラームが鳴るまで夢を見た
続きを期待して鏡を覗いたら
白髪で頬のたるんだ男がひとり

あれは雨の中動かないベスパ
無理な体制でキックして転げた
鉄の塊と仲良く階段落ちして
選択を間違えたことを痛感した

人生の選択に間違えなどないさ
とだれかの作品で言ってたっけ
綺麗事などいらないさそう
俺は間違えたんだ

ひびの入ったすりガラスを覗いて
こっそり教室の様子を伺った
そしたら気づかれて優等生が
みんなは焚き火をしに屋上だと

奥にいるのは若い女教師だった
あいつら二人きりで何してたんだ
淡い嫉妬と省かれ者の諦観
雨の日に焚き火なんて疑わしい

廊下で見知らぬ後輩に止められた
先輩は映画コースとってますか
やめてくれそれはもう選べない
俺は間違えたんだ

学歴社会の日本では食えないね
なんて年老いた母とライン
甥の心配をするふりしながら
自分を慰めたんだ

このストーリーはいつまで続く
先が読めずそしてありきたりな
夢のかけらもない道すがら
ありえたかもしれない平行線に

眠りのなかで切れ端だけ触れた
それはとても懐かしい匂いで
涙がこぼれそうになるのを殺して
曇り空の朝を迎える

進むことしか許されないのか